グエン・カック・ギアー

NGUYEN KHAC NGHIA

Profile & Message

2009年 来日 日本語学校に入学

2011年     拓殖大学の商学部に進学

2015年   拓殖大学商学部を卒業、設計会社に入社

2016年7月   日本語学校で留学生サポートの仕事を開始

2016年11月       ベトナムに帰国 日本語センターを開所

ベトナム人留学生だけでなく、色々な国の留学生と出会うことができましたが、勉強や仕事で成功する人たちは、殆どみんな会話が上手な人だと気づきました。その能力は生まれつきなものではなく、長い時間をかけて、少しずつ出来上がっていくものだと思います。人の会話をよく観察して(聞いて)、恥ずかしからずにたくさん練習をすることで、会話の能力は向上します。 

日本語を勉強しているみなさんが一番良い勉強方法を見つけられて、この記事や「Samuraichan」が、勉強のモチベーションになるようこれからも頑張ります。

日本への留学まで

10年前、高校3年生だった私はバスケットボールに夢中で、いつも日焼けをして真っ黒な学生でした。当時、スラムダンクという日本の漫画がベトナムでリリースされ、漫画の登場人物にように、私たちのチームもバスケットボールに熱心に取り組んでいました。新刊が販売されると直ぐに購入して、夢中に漫画を読んでいました。そして、いつの間にか日本に興味を持つようになっていました。

その当時、父は日本人と関わる仕事をしていて、日本人を優秀だと感じていました。そして、高校3年生の私にも日本への留学を勧めていましたが、私はベトナムの大学への進学を希望していました。7月になるとベトナムの大学入試がありますが、私は大学の入試試験に落ちてしまい、仕方なく日本語を勉強して、日本に留学することを決意しました。そのようにして、私と日本との縁が始まりました。

日本に留学するには、まず日本語を勉強しなければなりません。私はハノイの小さな日本語センターに入学しました。センターの規模は小さかったですが、日本人の先生もいて、授業も厳しかったので、先生に叱られないように毎日授業の前には予習をしていました。大学の試験に落ちてしまい、恥ずかしい気持ちもあり誰にも会いたくなかったので、日本語センターと自宅で日本語の勉強ばかりしていました。そのせいもあり、1週間でひらがな、カタカナを全部覚えることができました。

日本語学習は初心者で、会話はあまりできませんでしたが、先生の発音をよく聞いて、真似をする習慣を身に付けました。先生が、「私の名前はマツモトです。私は日本人です。」と授業の中で話すと、家に帰ってからも先生の話し方を思い出して、口の動かし方を練習しました。

日本語の勉強は順調でしたが、その日本語センターでは留学に必要な修了証が発行されないので、別の日本語センターへの異動を余儀なくされました。新しい日本語センターは規模も大きく学生も多かったですが、日本人の先生はいませんでした。授業は午前か午後のコースを選ぶことができましたが、私は家にいてもやることがなかったので、午前と午後両方のコースを受講しました。そこで3ヶ月間勉強をして、みんなの日本語の45課を修了しました。文法も語彙もよく覚えることができましたが、会話はあまりできませんでした。

そして、2009年4月ビザの申請が認められ、日本留学という冒険が始まりました。

会話と発音の練習方法

来日して日本語学校に入学すると、直ぐにクラス別けのテストがありました。文法と語彙が得意だったので、上級クラスになりましたが、そのクラスの学生は、韓国人や中国人の留学生が多く、皆はすでに日本での生活も長くて、日本語の会話がとても上手に感じました。周りの学生の会話力に圧倒されて、私は会話や発言することができず無口になってしまいましたので、中級クラスに移ることにしました。

当時は学校の寮に住んでいて、バスケットボールが好きな中国人留学生がルームメイトでした。毎日授業が終わると、近くの公園でバスケットボールをしながら、その日学校で勉強した文法を実際の会話で使えるように復習しました。最初の頃は、「今日は何を食べましたか?」、「どこへいきましたか?」など簡単な会話から始め、慣れてくると長い文章や、複雑な会話を練習しました。この練習方法は、すごく楽しくて日本語を覚えやすかったです。ある日公園でバスケットボールをしていると、上海から日本に来ている大学生に出会いました。彼は発音がとても上手で日本人のようでした。自分の日本語を彼に聞いてもらうと、「英語には適した声質だけど、日本語に向いた声質ではない」と言われました。いくら頑張っても、自分は日本語に適性がないのだと思い、ひどく落ち込みました。しかし、よく考えてみると、日本人でも色々な声質の人がいて、自分と同じ声質の人も多くいるだろうと思いました。声質が原因なのではなく、自分の努力が足りなったことに気づきました。

その時から、話すことだけではなく、発音の練習も頑張るようにしました。学校では、日本人の先生が発音を注意してくれ、アルバイト先ではお客さんや日本人スタッフの発音をよく聞いて、真似るようにしました。

先輩に紹介してもらった古いカフェでアルバイトをしていましたが、その店は店長とアルバイトが二人だけの小さくて静かなお店でしたので、お客さんの会話が良く聞こえました。店の中でお客さんがしゃべっている発音や文法を記憶して、家に帰ってから大きな声で発音や文法を真似して練習しました。また、店長がお客さんと話す時の挨拶や会話にも注意していました。例えば、「いらっしゃいませ」という挨拶も、お客さんの心境や気持ちによって言い方や発音を変えていました。

観察して(よく聞いて)、覚えて、練習する、という流れを毎日繰り返していると、日本語を話す時の口の動かし方を調整できるようになり、長い文章を話すときもつっかえなくなりました。ある日、自分の日本語がネイティブの発音に近づいていることに気づきました。発音や会話も自然にできるようになり、日本語が上手な韓国人や中国人の学生とも議論できるようになりました。

日本語教育への道

2年間の日本語学校が修了し、拓殖大学の商学部に進学しました。そこではベトナム人の先輩はおらず、履修登録や学校の行事など何でも自分で調べて行いました。日本語学校時代に積極的に日本語でコミュニケーションを取ることを意識していたので、大学でも上手く溶け込むことができました。

 大学に入学してから会話力は上達しましたが、観察して(よく聞いて)、覚えて、練習する習慣を続けました。また、大学卒業後は日本での就職を希望していたので、先輩たちの経験を聞き、Youtubeで日本の就職活動に関する情報をよく見ていました。

大学3年の夏休みにベトナムへ一時帰国した際に、日本語センターで働いている友達から、センターの学生たちへの日本語講座を依頼されました。センターの学生たちの勉強している姿を見ていると、自分が日本語を習い始めた時のこと思い出し、自分の経験を後輩たちに伝えたいという気持ちと、日本語教育の仕事に挑戦してみたいという気持ちが芽生えましたが、まだその仕事との縁を強く感じることはありませんでしたので、日本語の先生は目指すことなく、大学の勉強に励み就職活動を行いました。その結果、日本の設計会社への就職が決まりました。

設計会社で働いていると、日本人の働き方が分かり、日本語力も上達しました。しかし、大学で勉強していた知識を活かす機会がなく、仕事のやりがいを感じることもありませんでした。そして、仕事を辞めるか迷っている時に、日本語の先生になりたいと思ったことを思い出しました。友達や以前の学校の先生に相談すると、みんな応援してくれました。自分でもよく考えた結果、建設会社を辞めて、日本語教育の道に進むことを決意しました。

日本語センターを開講

自分が自信を持って日本語で会話することは、N1やN2の資格を取得するのと同じくらい大切なことだと思いますが、日本語を勉強しているベトナム人は資格の取得ばかりを意識して会話をあまり重視していないと感じます。ベトナム人が作成した日本語学習教材は、殆どが文法と語彙について書いてあるものなので、自分の経験や強みを活かし、日常の中でよく使われる日本語会話のフレーズを紹介するビデオを作って、「Samuraichan」というFacebookページで広める活動を行うことにしました。

初めて作った動画はおおざっぱなつくりでしたが、日本にいるベトナム人からも、ベトナムで日本語を勉強している人からも、楽しく覚えられると好評でした。また、「どうしたら日本語の発音が上達するのか?」、「他のテーマの動画も作って欲しい」等のメッセージもたくさんいただきました。

 そして、動画を作りながら、日本語学校での仕事もしました。自分の日本語センターを開きたい気持ちを持っていましたので、日本語学校の運営方法や学生のニーズを把握したり、他の先生の仕事のやり方をそこで学びました。

「Samuraichan」を作ってから半年後の2016年11月、ベトナムに帰国して自分の日本語センターを開講し、大学3年生の時から持っていた日本語を教えるという夢を叶えました。

私の日本語センターはまだ小さいですが、学生も集まるようになってきました。自分は日本での経験があるだけで、日本語を教える能力はあまり高くないので、色々な資料を読んで、皆が理解しやすい教え方と、日本語での会話を練習できる環境を整えるために毎日努力しています。この先は、様々な困難があると思いますが、熱心に努力すれば、最後まで行くことができると信じています。

メッセージ

 日本と日本語に触れてから、8年が経ちました。ベトナム人留学生だけでなく、色々な国の留学生と出会うことができましたが、勉強や仕事で成功する人たちは、殆どみんな会話が上手な人だと気づきました。その能力は生まれつきなものではなく、長い時間をかけて、少しずつ出来上がっていくものだと思います。人の会話をよく観察して(聞いて)、恥ずかしからずにたくさん練習をすることで、会話の能力は向上します。

日本語を勉強しているみなさんが一番良い勉強方法を見つけられて、この記事や「Samuraichan」が、勉強のモチベーションになるようこれからも頑張ります。

            ハノイ、2017年8月