何も心配も苦労もせずにすごした日々

2017年4月、貿易大学1年生が修了し、私は青森中央学院大学の2年生に編入しました。ほとんどの留学生は日本語をもっと上達したいや、海外の大学の卒業証明書をもらって就職を有利にしたいなど、留学に目的があると思います。みんな何かしらの留学目的がある中、私は何も目的がないまま留学生として来日しました。

その当時はまだ20歳にもなっていなくて、何も考えていない学生の一人でした。たまたま日本へ行けるチャンスがあったので、日本に行った後どうするか、将来どうなりたいのかといった考えが何もなく日本留学を決めてしまったのです。

来日し、青森中央学院に入学後も、奨学金や両親からの仕送りがあったのでお金の心配はなく、アルバイトをはほとんどしていませんでした。課外活動やボランティア活動ばかり熱中し、学校から帰ってから毎日テレビでバラエティ番組で漫才などを見てばかりの日々でした。私はビジネスと法律が専門だったのですが、興味を持てなかったのです。期末試験が近づいたらその時だけ集中して勉強するので、机に向かって勉強らしい勉強はほとんどしていませんでした。今振り返ると自分はもったいないことをしたなと思いますが、当時は自分が何をやりたいのかといった方向性がわからなかったので、ただ日々を好きなことをに費やしていました。

課外活動やボランティア活動に参加したり、テレビ番組をたくさん見ていたおかげで、自然な日本語が身に付き、日本語のコミュニケーション能力は早く上達しました。テレビでは日本人しか知らないような言葉遣いや笑わせ方など、日本人が共感してくれるポイントをテレビで見て覚えていたので、日本人と話

すと大抵、君は日本人みたいだねと一つ違った印象を持ってもらえます。私は就職活動や大学院進学の時、メールを送るときにこの能力が役に立ちました。

私は周りから一風変わった性格だと言われます。私は安定した生活や平凡な暮らしはあまり好きではありません。どちらかという刺激を求める性格です。

大学の2年生になり、何か新しいことを勉強したいと考え始めました。そこで「IT」の勉強をしようと思いました。私の専門はビジネスと法律なのでITと何一つ関連がないのですが、実はボランティア活動でフォーラムに参加した際、多くの留学生や技能実習生と出会いました。彼らから、日本語を勉強したくても一緒に勉強してくれる人も教えてくれる人もいないから、結局、自分一人で机に向かって勉強しなければならないという話を聞きました。自分だけで勉強するので辛く、長続きしません。この日本語学習に困っている人がとても多いことに気が付きました。今や、ITはグローバルで発展しているので、ITを活用したオンラインの教育プログラム、通信教育があったらいいなと思っていました。でも、ITを活用するためにはまず、ITの基礎から勉強しないといけません。私は何一つITのことを知らなかったので、ITの勉強をし始めました。すると、ITの勉強は面白く、夢中になってしまい、本来の自分の選考がさらにつまらないと感じるようになってしまいました。

そのとき、ベトナムの大学生時代からアルバイトをしていた日本語センターの社長から連絡がありました。社長もこれから、通信教育に力を入れようと思っているので。ベトナムに戻って一緒に通信教育のプロジェクトをやろうかと声をかけてくれたのです。私は自分の専攻は退屈に思っていたので、学校を辞めてベトナムに帰ろうかと悩みましたが、もう少し日本のことを知ろう、ITの勉強を続けようと思い、日本にとどまることにしました。

大学3年生になり、ゼミを選択する時期になりました。今の専攻に飽きていたので、正直、ゼミの説明会なんてつまらないから行かないつもりだったのですが、学校へ行く用事があったのでついでに寄ってみました。想像通り、つまらなかったです。飽きて途中で帰ろうかと思った時、ある1人の先生にくぎ付けになりました。その先生は厳しそうな雰囲気で壇上に上がり、こうおっしゃったのです。「あなたたちは友達が選ぶから自分もそのゼミを選ぼうと考える人が多いでしょう。そんな人は将来成功しません。この先、AIが出てきてみんなの仕事は奪われてしまいます。絶対、将来成功しません。」私はこの言葉に衝撃を受けました。それと同時にかっこいいと思ったのです。最初は入る気がなかったゼミも、この先生のゼミには入りたいと思いました。私が魅力に感じた

佐藤先生のおかげで、人生の別のページが開かれました。

人生の目的

ゼミの初回授業で先生から私たちに「人生の夢は何ですか?その夢のためにどんな努力をしていますか?」と質問がありました。私も同級生の日本人学生たちみんな答えられませんでした。この様子を見て先生は、「この2年間のゼミで答えが見つかるように夢を探してほしい」とおっしゃいました。

先生の専門は政治学・行政学ですが、見識が広く、何でもよくご存知です。また、もともと三井住友銀行(SMBC)に勤務されていたので、交友関係のネットワークも広いです。私は先生のおかげで日本のことがもっと好きになり、そしてソフトスキルも身に付けることができました。紹介していただいた人や、いろいろな人からお話を聞いて視野が広くなりました。

また、ITを活用して地方創生することも研究されています。大都市もあれば人口が非常に少ない地方もあります。たとえばzoomミーティングなどのITを活用してこの格差や距離を縮めようというのが先生のお考えです。先生のIT活用で世界が縮まるという研究から、かつて抱いたオンラインの教育プログラムの夢を思い出しました。私はゼミで先生のお話を聞いて、ITの基礎知識や専門知識を勉強するだけでなく、どうやって応用できるかを研究したいと思い始めました。今まではただ、できたらいいなとフワフワしていたものが、明確な夢の形になり、行動に移したいと思う段階に来たのです。

3年生になると、進路で悩まされることになります。日本にいる大学3年生は、就職するか、それとも大学院に進学するかの選択に迫られます。私も就職するなら、オンライン通信などのITノウハウを持っている会社に入社して、実際の仕事をしながら経験を積むのも一つの道だと考えました。他方、理系の大学院に進学してITを基礎から勉強するのも一つだと思いました。どちらがいいか悩みましたが結論が出なかったので、先生に相談してみました。先生からは、「迷ったら両方進めてみたらいい。自分が両方を進めていくうちに自分に合ったほうが見つかりるから、両方チャレンジしてみるといい。」というアドバイスをいただきました。私は先生の言葉を信じて、就職活動と大学院の受験のための勉強という二足の草鞋を履くことになりました。ここから人生で一番苦しく、苦労した1年間の幕が開けました。

就職活動を通して自分を見つける

まずは就職活動についてです。日本では就活を始める際に、いろいろな就活サイトに登録して就活の記事や本を読んだり、Youtubeなどで就活に関するビデオを見る人が多いと思います。私もまず、就活とは何か、何をしないといけなのかわからなかったので、就活のイメージをつかむために情報を集めました。

だいたい就活とは何かがわかった後は、自己分析に時間をかけました。今振り返っても実感していますが、自己分析はとても大切なことです。自分は何がしたいのか、どんな仕事を探しているのかをよくよく考えてみることは自分の方向性を決めるだけでなく、自己PRや面接時も論理的に書いたり話したりできるようになるので大切なのです。みなさんの中には、日本の就活は難しいし、選考ステップが多くて面倒だと感じて文句を言っている人もいるかもしれません。しかし私は、日本の就活にも良い点があると思っています。例えば、自己分析をすることで自分を見直すチャンスにもなるし、自分は何が好きなのか、どんなことが幸せに感じるのか知る機会はほとんどないと思います。

自己分析で自分がどんな人なのか、何がしたいのか知った後は、どんな分野がいいか、どんな会社を選ぶかを研究する段階です。日本にはいろいろな会社があります。大手の日系企業、大手外資系企業、中堅企業、中小企業、ベンチャー企業など、たくさんあるのでしっかり調べて研究する必要があります。日本人でもあまりよく調べずに会社を選ぶ人がいますが、入社後に後悔すると聞きます。私も応募するときはどんな会社なのか会社のレビューを読んだり、いろいろと情報を集めて時間をかけて調べました。

私はこの1年間の就活で役に立ったなとお勧めできる本があります。それは『内定力』という本です。この本は他の就活関連の本ほど有名ではありませんが、とくにこの本では、就活を一つのゲームに例えているので面白くて読みやすく、いかに内定を獲得できるのかが書いてあります。一度手にしてしまうと他のライバルたちには教えたくないと思ってしまうような本です。

私は青森にいながらも、応募している企業のほとんどは東京の会社でした。東京なのでもちろん競争率は高く、先生のネットワークもお借りしましたが、選考はなかなかうまくいきませんでした。何より痛いのは、経済面です。東京や東京近くに住んでいる人は交通費でも数百円ぐらいで済むのかもしれません

が、私は青森から東京まで出てくるので交通費や宿泊費もかかり経済的な圧迫は大きかったです。とくに10時間かけて東京の面接会場に来て3次選考を受けましたが、不合格という結果が来たときはひどく落ち込みました。もう就活を諦めたいと思うことは何度もありました。それでも先生が応援してくれたり、ベトナムの両親がお金を送ってくれたりしたので、何とか頑張り続けることができました。先生は、「夢はいつでも大きく」とおっしゃって下さったので、自分の夢に向かって頑張り続けました。そして辛く険しい経験を乗り越え、2019年6月に日本では大手のリクルートから内定をいただきました。この会社はとても良いウェブサイトもあり、生活面のあらゆることにITを活用しようとしている会社なので魅力を感じました。

就活と並行して大学院の受験勉強も 

次に大学院進学のための受験勉強についてです。就活と同時に大学院への受験勉強も始めました。私の専門はビジネスと文系で完全に文系でしたが、どうしてもIT応用について勉強したかったので、理系の情報科学を専門に選びました。就活をしながら受験勉強もしなければならなかったのであまり時間はありませんでした。しかも、私は2年生まで大学の授業をさぼりがちだったので、単位も相当数残っていて徹夜の日々でした。当時、私が目指していた大学院は、東京大学の大学院と名古屋大学の大学院の2校でした。周りに志望校を話すと、え?大丈夫?といった反応ばかりでした。

大学院受験のためにまず最初の壁は「英語」です。TOEIC750~800点を取らないといけません。来日してから英語の勉強から遠ざかっていたので、短期間で文法、語い等を整理して、必死に毎日勉強しました。TOEICの試験も何度も申込み、3回目の試験でやっとTOEIC800点を取れました。何とか1つ目の壁をクリアすることができました。

次は東大と名大の大学院の指導教員を見つけないといけません。2つの大学院の教授にメールをしましたが、待てど待てども返事がありませんでした。何度も何度もしつこいくらい送ったら、やっと返事をいただきました。そこでアポイントを取ることができました。先生になぜメールを無視したのか伺ったところ、毎日同じようなメールがたくさん来るので、よほど熱心な人でない限りは見ないことにしているということがわかりました。インターネットでも同様のことが書いてありました。

そしてもう一つの壁は、専門知識の試験です。専門知識には、理系数学、現代文があります。現代文はいわゆる日本人が一般的に受けるもので、外国人留学

生に配慮などはありません。日本語能力試験N1の読解試験みたいな形式ですが、内容ははるかに高度です。外国人の自分にとって大変ですが、机に向かってただひたすら勉強するしかありません。

いろいろな関門を乗り越えて、最大の難関、研究計画書の作成です。大学院の受験勉強で一番大切で過酷と言っても過言ではありません。自分の研究計画書は、先行研究がないか、オリジナリティがあるのか、その研究は人の役に立つのかなども調べないといけません。計画書を書いては消し書いては消し、半分書いたら自分の考えていた内容が先に研究されていることが見つかって没になったり、徹夜で書いても先生から書き直しを言い渡されたりと大変でした。ご飯が食べられなくなるほどのストレスでした。頑張って書いたのに他の論文が見つかったりすると、正直、もうやめたいと投げ出したかったです。しかし、何とか辛くても歯を食いしばって頑張りました。

それが終わったら最後は面接です。幸いなことに私は就活を通じて面接は場数を踏んでいたので、自信を持って面接に臨むことができました。結局、東京大学大学院は不合格でした。受験する人たちはみんなすごい人たちなのでチャンスは1%未満だと言い聞かせていましたが、ショックは大きかったです。けれども、名古屋大学大学院には合格することができました。先生にも私の研究計画書を褒めていただき、なんと、学校推薦で、TOKYO MARINE(東京海上日動)から1ヵ月18万円の奨学金をいただけることにもなったのです。

選択肢に迷う

長く苦しかった就活と大学院受験も終わり、次はどの方向へ進む決めないといけなくなりました。リクルートの会社は、ビジネスのプロジェクトを通じてIT応用ノウハウの経験を積むことができます。しかし懸念点として、大企業なので、最初は決まった仕事だけしかできず、自分でプロジェクトを担当できるようになるまではかなり時間がかかるといったことです。魅力は感じつつも、進学と天秤にかけ悩んだ結果、私は名古屋大学大学院への進学を選ぶことにしました。大学院へ進んでITを学習し、それを論理化、そして実践しようと思ったのです。

いざ進学と決めたとたん、予期しないことが起こりました。ちょうど入学手続きをしているとき、コロナウイルス影響が日本にも広がってきました。ベトナムにいる両親も私を心配し、毎日帰国してほしいと電話がありました。また、

私が大学院に応募した時の指導教授が別の大学に異動となってしまい、結局、別の指導教授になることがわかりました。

帰国した方がいいのか、このまま大学院に進学するか悩んでいた時、かつての日本語センターの社長から連絡がありました。その社長は再び私と一緒に働きたいと言ってくれ、通信教育のプロジェクトのこと、投資してくれるところがあるということ、私が担当となり運営を任せてもらえることなど、いろいろ話を聞いているうちに良いチャンスだと思い、日本語センターで働くことに決めました。最初は大学院に入ってまず学習して論理化し、そして仕事で実践と思っていましたが、プロジェクトをしながら実践から始まり、経験や知識で足りないところがわかったら大学院に戻って学習しようと思いなおしました。幸いにも、名古屋大学の大学院には、試験の結果を2年間保留できる制度があるので、ベトナムに戻って仕事をするために保留することにしました。奨学金はもらえなくなってしまいますが、その代わり、早い段階から実践的なプロジェクトに参加して展開することができ、自分が思い描いていた夢が実現できるほうが私にとって嬉しいことです。夢に向かって新しい一歩を踏み出しました。

メッセージ

私の大好きな言葉で、「成功はゴールにあるのではありません。プロセスの中に成功はあります。」という言葉があります。多くの若者は、自分の夢を実現させるためにどっちの方向に進もうか大いに悩むと思います。こっちの道がいいだろうか、それともこっちか。はたまた予想しない方向に進むときもあります。仮に自分のゴールに直接つながっていない道だったとしても、そこで得られる知識や経験があります。それが人生の糧になるのです。

まだみなさんは若いので、やってみること、いろいろ体験してみることが大切だと思っています。この道だと思って進んで失敗したとしてもまたやり直すこともできますし、失敗から学ぶこともあります。どうしようかと悩んだまま、迷ったままでいたらもったいないです。是非、恐れずに一歩足を踏み込んでチャレンジしてみましょう。