チャン・ フォン ・ジャン
TRAN HUONG GIANG
Profile & Message
2008年 ハノイ貿易大学ビジネス英語学科卒業後、そのまま同大学の英語講師として勤務
2009年 文部科学省の奨学生として来日 立命館大学修士課程へ入学
2012年4月 外国語学習アプリ制作会社でけベトナム語学習プログラムを担当
2012年10月 e-Book制作会社に正社員として入社 マーケティングを担当
2015年 自身の日本での体験や独自の情報を発信するウェブサイト(Bikae.net)開設(併せて、Facebookページも開設)
予想外のことが起きても、柔軟に考え、新しい環境に適応しよう。
新しい体験を怖がらず、自分の能力を制限せず、自分自身を信じていこう。
思わぬ日本への旅
学生時代は英語を勉強していたので、英米に興味があり、日本や日本文化、そして日本語には全く関心を持っていませんでした。大学3年生になると、第2外国語を選択する機会がありましたが、その時も日本語ではなく中国語を選びました。そんな自分が、まさか日本に留学する日が来るとは夢にも思っていませんでした。
しかし、運命と言ってもいいかもしれませんが、「彼」に出会いました。付き合って間もない彼は就職して日本で働くことになり、私たちの遠距離恋愛がスタートしました。毎日、彼の日本での体験を聞いているうちに、いつの間にか私も日本という国に好感を持つようになり、2009年に奨学生として来日しました。
幸せな日々を送る
来日後は彼と毎日会えるようになり、また、大学の先生も周りの友達も皆優しく、奨学金もあったので、毎日が本当に幸せな気持ちでいっぱいでした。日々色々な所に行き、日本の新しいことを楽しみながら体験していました。
そして、「この難しいと言われる言語を絶対に習得してみせるぞ!」と、高いモチベーションを持って日本語の勉強を始めました。申し込みが可能なボランティアの日本語クラスには全て申込み、毎日一生懸命通いました。文化交流活動にもたくさん参加し、そこで出会った人たちに積極的に声をかけて交流しようとしました。
日本に来たことを後悔
しかし、物事すべてが上手くいく時間が過ぎると、日本語が出来ないことが理由で様々な問題が起こるようになりました。来日当初の高いモチベーションが冷め、勉強すればするほど訳が分からなくなり、徐々に日本語に対する意欲が下がってしまいました。「こんな複雑な言語を習得することは絶対にできない…」と落ち込み、いつの間にか本来の自信を失い、すべての物事に対して受け身になっていきました。
当時、奨学金があったので生活費の心配はありませんでしたが、日本語を上達させるため、そして、今後の就職活動のためにもアルバイトをしようと思い、一生懸命アルバイトを探しました。
しかし、いくつの仕事に応募したのか数えられないほど応募しましたが、次々に失敗し、ストレス状況は悪化してしまいました。
自分の能力を少しも発揮できないと感じて、日本に来たことを後悔するようになり、日本には自分の居場所がないと何度も思いました。
考え方を変えたら・・・
どの方向に進めればいいか分からない日々が続いていましたが、このままずっと嘆き、落ち込んでいても、状況は変わらないことに気が付きました。そして、本来の自分の自信を取り戻すために、「受け身な姿勢ではなく、自分から積極的に行動しよう!」と、考え方を変えることを決意し、自分に合った仕事が絶対にあると信じて諦めずにアルバイトを探し続けました。
まず、自分の強みをリストアップして、その強みが発揮できる仕事を探すプランを立ててみました。そして、再び日本語の勉強にも力を入れました。すると、少しずつですが、努力が報われ、いくつかの面接機会を得られるようになっていきました。
面接で断られたことも多かったですが、ついにその日が来ました。語学学習に関するアプリを制作する会社からアルバイトのチャンスを頂き、やっと自分の適正に合った仕事をすることができるようになりました。
さらに、なんとその数カ月後には、e-Book制作会社に正社員として就職することができ、マーケティングの業務を担当させてもらえるようになりました。仕事を通じて本来の自信を取り戻すことができ、新しいことも色々と勉強できました。また、ずっと悩んできた日本語も徐々に上達を実感するようになりました。
この一連の体験から、「自分自身の能力を制限せず、柔軟に考え、自分のやるべきことを明確にする」ことの大切さを学びました。
自分の体験を共有
ある日、「化粧品に関する日本語の単語」というテーマで記事を書き、ベトナム人コミュニティーサイトに投稿してみました。その時は単純に、このテーマについてまだ誰も情報を共有していなかったので、自分の知識や経験をまとめて軽い気持ちで投稿しましたが、その投稿に対して700件以上のイイねがあり、何百回もシェアされ、一晩だけで100人以上から友達申請が来てとても驚きました。
別のテーマでも同様に自分で記事を書き、投稿してみましたが、また同じく皆さんから好評を頂き、自分の体験が他の人の役にも立つことが分かりました。他の人の役に立つのであれば情報を共有しない理由はないだろうと思い、「Bikae」という情報共有サイトとFacebookページを同時に開設して、皆さんに自分の日本での体験を共有する場として活用し始めました。
私は他のスタッフと一緒にベトナムのコールセンターの仕事を担当することになりますが、かなりコミュニケーション能力が求められるので、今は日本語の勉強に集中して、今年4月にJLPTN1を取得できるように頑張っています。
将来、他のポジションにも挑戦したいので、正社員の仕事が決まったから安定という考えではなく、N1取得後に医療通訳者や保険に関係のある資格の受験などもできたらと考えています。
仕事をしながらの受験勉強はきっと簡単ではないと思います。しかし、このデジタル時代では、いつでもどこでも学びたいことが学べるので、私もいつも新しいことを勉強するという姿勢を持たないと、時代に乗り遅れてしまうと考えています。
正社員として働き始めると、子供たちとの時間が減ってしまうということは覚悟していますが、頑張っている私の姿を見て、子供たちも多くのことを学べると信じています。
Bikaeと生活の変化
既に日本や日本での生活についての情報を共有するサイトはたくさんありましたが、同じ場所、同じ食べ物、同じ商品に対しても、人によって体験は異なるので、誰かの・何処かの記事をシェアするのではなく、実際に自分が体験したことを詳しくまとめて発信することにしました。
春のお花見スポットや、日本の歯医者さんで歯を見てもらう体験談、ドラッグストアでの薬の購入など、色々なテーマで自分が体験したことを記事にしました。もちろん、女性に大人気な料理のテーマもいくつかあり、化粧品の選び方や粉ミルクを選ぶ際の注意点なども書きました。
主に私が実際に体験したことですが、その体験は色々なところに行ったり、新しいサービスを使ってみたりしようとする、私の性格や習慣から生まれたものです。日本に来たばかりの時、日本語がまだあまり出来ませんでしたが、新しい環境に早く適応するために、自分で色々な所に行ったり、何か分からないことがあればすぐ自分で調べたり、使ったことがないサービスがあれば自分でそのサービスを体験するなど、積極的に行動することがとても大事だと思っていたので、常にそうするように心がけていました。
また、「Bikae」の中には日本語勉強のコーナーも設けましたが、これに載せる内容も私が実際に勉強したことをまとめて、翻訳したものです。他の人にシェアするためでもありますが、自分が習った文法や語彙をもう一度復習する場でもあります。
ウェブサイトで情報を共有するようになってから、自分の生活にいい意味での変化が生まれました。皆さんからのコメントやメッセージに返信することで少し忙しくなりましたが、自分のウェブサイトが多くの人に知られて、読まれて、本当に嬉しいです。もちろん、自分が書いた内容が無断転載された時や、悪意的なコメントを読んだ時に落ち込むこともありますが、記事を読んでくれた友達から感謝のメッセージもたくさんもらいます。そして、それが記事を書き続ける原動力にもなっています。また、知らない人からも感動的なメッセージを頂くこともあり、記事を書き他の人の役に立てることは、とても幸せなことなんだと初めて実感しました。
メッセージ
「日本に留学すること」、「日本で色々なことを体験すること」、「それを記事にしてウェブサイトで共有すること」、それらは全て想定外の出来事で、自分ができるとは全く思っていませんでした。しかし、実際にチャレンジしてみると、色々なことが勉強になり、今まで知らなかった自分の能力にも気づけて、意味のあることもいくつかできました。
私は、「The biggest failure is the failure to try」という言葉にとてもに同感しました。
そして、この言葉を通じて、皆さんに一つだけ伝えたいことがあります。
もし、自分が予想していなかった、考えてもいなかったこと・変化が起きたとしても、その新しい
環境に適応することを心がけ、自分を信じて新しいことをたくさん体験して下さい。
きっと、あなたは自分が思っているよりすごい人です。
東京、2016年4月