ホアン・タイン・トゥイ

HOANG THANH THUY

Profile & Message

2014年6月  外国語に特化した高等学校 卒業

2014年9月    ハノイ国家大学 外国語学部 日本語学科入学

2014年12月        国際奨学財団の奨学金で来日、暁星国際高等学校 入学      

2016年      早稲田大学社会科学部入学

2014年           VYSA(在日ベトナム学生青年協会)対外部に所属

これから留学する人や来日したばかりの留学生たちには、この先チャレンジの道が待っています。学校選びや勉強の計画、そして日本での生活など多くの困難があります。先輩の経験がみなさんの日本での生活や勉強の計画に役に立つと思います。私の経験が少しでもみなさんの役に立つことができれば嬉しいです。

目標を明確にする

留学前に準備をすることが大切です。まず、「なぜ外国で勉強するのか?」を自分自身に問いかけてください。


18歳の時、私は外国語に特化した高校で日本語を勉強していました。その後、大学へ入学しましたが、留学する夢も同時に持っていました。入学してから3ヶ月後に、留学のための奨学金をもらえることになったので、大学を退学して日本へ留学することを決意しました。しかし、その奨学金には、1年以内にEJUを受験して、日本の大学に入学しなければならないという条件があり、もし日本の大学に合格できなかったとしても、ベトナムの大学に復学することはできません。私は日本のマンガやコスプレ、J-POP音楽に興味があった訳ではありませんが、母がいつも言っていた言葉に後押しされ留学を決めました。その言葉とは、「外国の言葉を学んでいても、その国に行き、文化を理解しなければ意味がない」という言葉です。母のその言葉は私に勇気を与え、来日後に苦労したり大変なことがあったりしたときにも母の言葉が支えになりました。

日本での実際の生活や勉強は、Youtubeで見るようにきれいで楽しいことばかりではありません。不安な時や大変な時もあります。ですので、留学することを決める前に、自分自身に留学する理由を問いかけて、目標をしっかり持ってください。


留学する理由を明確にしたら、次のステップです。あなたが留学するうえで直面する課題を知りましょう。事前に課題を認識することはとても大切です。日本の大学へ行きたい人は、最大の課題はEJU(注1)です。まず、簡単な質問からしましょう。EJUとは何か、いつEJUがあるのか、科目は何かなど、これらの質問の答えを見つけていく中で、EJUのことを理解し、自分の目標に近づくことができます。事前に事実を知ることはとても意味のあることです。心の準備もでき、これから日本語能力をどれくらい伸ばす必要があるのか、勉強に必要な参考書は何か、事前に準備することができます。

※注1:EJU(日本留学試験)とは、外国人留学生として日本の大学(学部)等に入学を希望する者について、日本の大学等で必要とする日本語力及び基礎学力の評価を行うことを目的に実施する試験。


そして、学校選びも早めに始めたほうがいいです。日本にはたくさんの大学があり、どの学校を選ぶかは難しい問題です。私はまず、自分が勉強したい専攻を軸に学校を選びました。京都や大阪の大学も考えましたが、時間や交通費がかかることを考慮して、東京にある大学から5校選びました。学校がまだ決まっていない人は、勉強したい分野や試験科目、学費や生活費をよく調べて、3~4つの大学を選ぶとよいと思います。日本の大学は、学校ごとに受験申込時期や入試方法が異なるので、できるだけ早く学校を選ぶことが大切です。

大学受験の4つのポイント

来日当初は、にぎやかな東京ではなく、最寄りのコンビニまで徒歩で30分かかり、夜7時には真っ暗になってしまうような地域で1年半、勉強していました。勉強していくうちに、最初は大学入学を夢見てワクワクしていた気持ちも、大学受験に落ちたらどうしようといった不安が込み上げてきて、ホームシックになっていきました。

さらに住み始めた当初はインターネット環境がなかったため、大学受験の情報を得ることができず、映画を見たりすることもできませんでした。しばらく経つとインターネット環境が整い、私はすぐに大学入試やEJUについて調べました。調べていくうちに大学入試ではTOEFLなどの英語スコアや面接、作文も必要だとわかり、受験に間に合うのか不安で泣きたい気持ちになりました。

限られた時間しかなく、精神的なストレスは大きかったのですが、私は目標に向かって勉強し続け、無事に大学に入学することができました。今振り返ってみると、そのとき自分が大切にしていたことは4つのことでした。


まず1つ目は、漢字と読解を一生懸命練習することです。私が大学受験勉強を始めたときは日本語能力がN3~2で、とてもトップ大学合格に必要な点数を取るには程遠いレベルでした。その頃の私は文法や漢字の知識が定着していなかったので、長文を読むスピードも遅く、難しい文章は何回読んでも分からず、そして読みながら眠たくなってしまうときもありました。幸いにも学校の副学長先生が課題として毎週たくさんの漢字や難しい読解の問題を出してくれたり、読解問題を部分ごとに分けて読み進めてくれたりしたので、漢字や文法の知識が増え、段々と文章が読めるようになりました。

このように勉強をしていったおかげで、EJU受験後に受けた日本語能力試験では、ほとんど勉強せずにN1に合格することができました。


2つ目は、英語の勉強をすることです。日本の上位大学の受験では、英語力やTOEIC、TOEFL等のスコアと、EJUの点数が必要です。受験勉強を始めて最初の6ヶ月は、EJUの勉強と英語の勉強を同時に行っていたので頭が混乱してしまい、勉強がはかどりませんでした。そんな時、ある先輩から、まず1ヶ月間はTOEFLの勉強に集中して、EJU本番の3ヶ月前までにTOEFLを受験したほうが良いというアドバイスをもらいました。これはつまり、EJUの試験は年2回しかありませんが、TOEICやTOEFLは頻繁に試験があるので、先にTOEICやTOELFの勉強を集中して行うと効率が良いということです。勉強しなければならないことがたくさんあると何から手を付けたらよいのか焦ってしまいますが、優先順位を決めて勉強すると精神的な負担も減ることになります。


そして3つ目は、模擬試験をすることです。受験勉強を始めたばかりでまだ知識が十分ないときからEJU本番までの間、定期的に友達とEJUの模擬試験をしていました。これは時間を計って模擬試験を行い、採点するだけのものですが、限られた時間の中で解くプレッシャーを経験するだけでなく、問題の構造や難易度、自分の課題などが分かるので、とても意味があることです。私の最初の模擬試験の結果は散々な結果でした。しかし、模擬試験を何回もしていくうちに段々と試験問題に慣れ、問題を解くスピードが速くなり、点数が上がりました。点数が上がっていくと自分の成長を感じ、EJU試験本番前にもプレッシャーをあまり感じなくなりました。模擬試験を多く経験した人が、EJU試験で高い点数を取るのは偶然ではなく、練習したからこそ、高い点数を取ることができるのだと実感しました。


最後4つ目は、十分な睡眠をとることです。十分に睡眠を取るというと、毎日勉強とアルバイトで忙しい留学生には贅沢に聞こえるかもしれませんが、睡眠不足で勉強しても集中できず、記憶力も落ちてしまいます。そのような時は少し仮眠を取ってから勉強したほうが勉強の効率は上がります。またストレス解消として運動をしたり、散歩をしたり、友達と話したりすることはとても大切なことです。十分な睡眠を取ったり、ストレス解消したりと健康を維持することは試験の結果にもつながります。

大きな壁にぶつかる

長かった受験勉強期間を経て、無事に大学に合格することができました。結果を聞いたときはとても嬉しく、これから新しい環境で友達を作ることにワクワクしていました。しかしそのワクワクしていた気持ちも今までの環境と新しい環境との違いからくるカルチャーショックや、生活費への不安で長くは続きませんでした。私は奨学金をもらっていましたが、東京の物価は本当に高く、奨学金では授業料と家賃しか賄えません。そのため、残りの生活費を稼ぐためにはアルバイトをしなければなりませんでした。生活費を管理するために、私は生まれて初めてExcelで家計簿を作成し、毎日毎日何を食べるか考えていました。

しかし、生活費の心配以上に自分の中で大きな壁となっていたことがあります。それは大学でなかなか日本人の友達と親しくなることができず、困ったときに頼る人も、自分の気持ちを分かち合う人もいないことでした。その時の私はいつもイライラして寂しい気持ちでした。

大学に入学して間もないときは、まだ日本語が上達していなかったので、講義の内容を聞いても分からないことが多く、とても苦労しました。また日本人の友達の会話に入り込むこともできなかったので、日本人の友達とは価値観が合わないのだと思っていました。入学してから1年半は本当に寂しく辛い時期で、私は日本のことが嫌いで憂鬱でした。


カルチャーショックは海外で生活をする上では必ずと言っていいほど起こり、恐らく誰もが同じような経験をすると思います。これは行動していく中で、少しずつ乗り越えていくしかありません。日本には恵まれた環境、豊かな生活、成長するチャンス、新しい世界観、そして仕事のチャンスがあります。これはベトナムにいたときには夢にも思わなかったことで、来日し、大学に入学したからこそ得ることができたのだと、ある時気が付きました。みんなと価値観が合わないからイライラするのではなく、日本のことをもっと理解しようと思いました。そこから私はたくさんの本を読み、そしてさらに日本語を上達させるように勉強しました。その他にも、日本人の学生の会話を観察したり、日本のバラエティ番組を見たりして、日本人のユーモアセンスやコミュニケーション方法を知りました。そのような努力のおかげで、私は以前よりもコミュニケーション能力が高くなりました。

大学に入学してからの2年間は、友達の輪に入るために日本人の友達たちに自分を合わせていたのでイライラしてしまうことがありましたが、今は無理に合わせることはしていません。自分と気の合う友達を見つけて、楽しい生活を送っています。

メッセージ

日本へ留学に来る人は、どんな学校を選ぶのか、何を専攻とするのか、受験勉強は何からするのか、そして日本の生活はどうするのか自分で決めなければなりません。私は日本に滞在してまだ3年で長くはありませんが、私だけでなく他の先輩の話や経験を聞いて、計画を立てることが大切です。私の生活や大学受験の経験をシェアすることで、少しでもみなさんの役に立つことができれば嬉しいです。

東京、2018年5月