チャン ヴィット ハ トュ

Profile & Message

2008      母が日本へ転勤となり、家族滞在として来日する。東京の日本語学校で日本語を学ぶ

2009年          日本語学校を卒業

2010年          早稲田大学に入学

2014年          大学卒業後、大手外資系コンサルティング会社へ入社

2015年          第1子が誕生し、9か月後に職場復帰

2018年2月         第2子が誕生

2018年9月         在日ベトナム人向けにヨガを通して健康維持やストレス解消を目的としたVietfitコミュニティを設立


留学生も社会人も、日本での生活は日々忙しく、ストレスを感じることも多いので大変だと思います。周りの人に自分を合わせないといけない場面が多くあり、気づかないうちに周りばかり気にしすぎて自分自身を失ってしまいがちです。ストレスをコントロールし、生活のバランスを取るためには、自分の時間を作ることが大切です。自分のことより仕事を優先しない。そのためには、自分自身が何をしたいのか考える時間を作ったり、スポーツをしてみたり、絵を描いたり、音楽を聴いてみたりすることを私は「自分を輝かせる方法」として大切にしています。

日本への道

2008年に高校を卒業した頃、母が日本へ勤務することになったので、私は家族滞在として来日し、東京の日本語学校へ入学することになりました。その頃、日本で受験できる大学はいろいろありましたが、母を始め、周りのみんなが早稲田大学に通っている先輩のことをいつも素晴らしいと褒めていたので、私もその先輩と同じ早稲田大学に通いたいと思いました。実は私は小さいころから周りの評価に敏感で、かっこいい自分のために頑張って努力する子どもで、自分が何をしたいのかをあまり深く考えず、他の人から高く評価されることに対してひたむきに努力し、突き進む性格なのです。


早稲田大学に入学するための最初の壁は、日本語能力でした。来日当初は日本語能力N5だったのですが、最短で早稲田大学に入学しようと決め、日本語の勉強を頑張りました。お昼の12時に日本語学校の授業が終わった後、すぐに家に帰らず夜の8時まで学校に残って日本語の勉強をしていました。そして勉強が終わってからアルバイトをし、帰宅の毎日でした。


日本語の勉強では一般的な日本語のテキスト教材の他、新聞などいろいろなものを読んで、語いや文法を勉強しました。そして努力が実り、来日してから9か月後には、N5だった私が日本語能力試験N1に合格できたのです。そして念願の早稲田大学にも合格しました。ベトナムの優秀な高校を卒業し、来日後9カ月でN5からN1に合格、そして1年間の日本語学校での勉強の後に日本のトップ私立大学の早稲田大学入学ととんとん拍子に事が運んでいきました。


2010年4月に早稲田大学に入学しました。ちょうどこの時、母は日本での勤務期間が終わったので、ベトナムに帰国しました。今まで母と一緒でしたが、これからは一人きりの、私費留学生生活が始まりました。

学生時代の就活

早稲田大学入学後は、毎日の勉強とアルバイトで忙しくて他に楽しみを見つける余裕はありませんでした。早稲田大学には、成績の良い留学生には奨学金のチャンスがあります。この奨学金をもらうためには、周りの優秀な留学生たちとの競争になるので、常に勉強を頑張らないといけませんでした。何とか頑張って奨学金をもらいましたが、大学の学費は高いので奨学金だけでは足りません。なので、アルバイトもしなければならず、勉強とアルバイトで忙しい日々でした。周りの友達はボランティア活動や長期休暇には旅行などを楽しんでいましたが、私にはそんな時間もゆとりもありませんでした。唯一、自分がリラックスできた時間というのは、週末に友達とダンスをしたり、フィットネスジムに行って汗をながしたりしたことぐらいでした。


このような慌ただしい日々があっという間に過ぎ、気が付いたら大学の4年生となり、今度は就職活動が始まりました。慌ただしく忙しない毎日で、目の前のことをただひたすらやらないといけない状態だったので、自分が本当は何がしたいのか、将来はどうなりたいのかを考えるゆとりはありませんでした。しかし、就活においては自分の目標はすでに決まっていました。それは、安定している大手企業に入社することでした。今まで優秀な高校、トップの大学に入っていたので、会社も大手でないとダメだと考えていたのです。有名な大手企業に入るために、いろいろな説明会やジョブフェアに参加しました。しかし就活で多くの面接を受けていくうちに、日本企業の面接の仕方に疑問を持ち始めました。いつもどの会社でも「なぜ当社を応募したのか」、「他社ではなく、当社に入社したい理由は何か」といった志望理由の質問ばかりで、私も次のステップに進みたいので本音では答えていませんでした。


そんな中、あるコンサルティング会社での面接では全く違いました。志望理由を聞かれなかったのです。その面接では課題を出され、それをどのように解決するのか発表するといった形式でした。私はこの時、応募者の情熱ではなく、その人の能力を見ている、つまり、その人のスキルやポテンシャルなどを見て選んでいるのだと感じました。今までの形式ばった質問ばかりの面接で飽き飽きしていた就活も、実力で判断されるコンサルティング業界に絞って取り組んだおかげで、晴れて大手の外資系コンサルティング会社から内定をもらいました。


正直に言うと、私は本当にコンサルタントとして仕事をしたいからコンサルティング会社を選んだのではありません。多くの日本企業と選考方法が異なっていて、自分自身を評価してくれる選考で内定をもらったので入社しただけなのです。そして入社して間もなく私は結婚し、1人目の子どもに恵まれることになります。

私は一体、何者?

トップ大学を卒業し、大手企業に入社し、収入も高く家族もいる。一見、理想的な生活を送っていると思われるでしょう。しかし、私はいつも何か足りないともやもやしていて、現状に満足していませんでした。友人と自分を比べては、友人に追いつこうと知名度が高く給料が高い会社へ、ポジションがより高い会社へと気持ちが動いていました。しかしその一方で、今のこの多忙な日々は自分が本当に望んでいるものなのかと問いかけていました。仕事はいつも忙しく、プレッシャーがあり、勤務時間は長い。夫も仕事が忙しいので夫婦で過ごす時間も短いです。たとえ、より給料が高くて、ポジションが上の会社へ転職したとしても、今と同じ毎日の繰り返しで何も状況は変わらないのではないかとも思っていました。


今の私は学生時代よりも情熱、行動に移すエネルギーは少なくなっています。子どももいるので子どもが大きくなったらどうなってほしいかなど、考えることはたくさんありすぎました。


周りから素晴らしいと評価されたい気持ちはあります。しかしその一方で、これでいいのだろうかと考え始め、自分自身のことが少しわかってきました。私は小さいころから就職するまで、社会や周りの人たちの基準、求めていることばかり気にしていました。たとえば、テストで高い点数を取る、優秀な学校に入学する、大きくて有名な企業に入社する、家庭を持ち子どもを産むなど、これらは周りの評価基準です。私はいつも他人の物差しで物事を判断していて、自分の欲求や喜びは二の次になっていたのです。自分は本当にこのままでいいのか、今になってやっと気が付きました。


会社ではコンサルタントとして働いていました。コンサルタントの仕事はプレッシャーがあり、ストレスも多い仕事です。そして夫も仕事で忙しいので、家庭のことはすべて私がしていました。仕事も家庭も子育てもと常に頑張らないといけない状態で頭の中はパンパンになっていました。自分をリラックスさせるゆとりも持てず、ストレスばかりで辛い毎日でした。そのころから、何となくこの辛い状態の原因は私の中にあるのではと感じ始めていました。その時は自分の性格に問題があるとは思っていませんでしたが、今になってようやく気が付くことができました。私は他人の評価ばかり気にして、かっこよく見せたがる性格なのです。


自分で思い返せば、高校生の時からいつも他人より高い評価を得るには、そしてかっこよく見せるためには次はどうしたらいいのかを考えていました。今目の前のことを楽しむ、集中するのではなく、常に先へ先へと見ていたのです。これは今の仕事も同じでした。今の仕事に集中して楽しむことができず、次のことばかり気を取られていました。そして失敗したら、それは自分のミスだとひどく自分自身を責めて落ち込んでいました。

自分自身のことに少しずつ気が付き始め、このままでは会社からのプレッシャーや仕事、家事などのストレスでパンクしてしまうと思いました。このストレスを解消するためには、どうするか考えたとき、学生時代によく週末に友達とダンスクラブで踊り、ストレスを発散していたことを思い出しました。


しかし今の私は学生のころとは違います。子どもがいて、仕事も忙しい。まず考えたことは、パートナーが必要になるスポーツはダメ。子どもがいるので、外に出て行うスポーツもダメ。そこで見つけたのは、ヨガでした。ヨガはパートナーがいなくても自分一人ででき、尚且つ家の中でもできます。最初はインターネットにアップされていたヨガのインストラクターのビデオを見ながらやってみました。実は昔、フィットネスジムでヨガのレッスンを受けたことがあったので、すぐにヨガの基本やコツを掴むことができました。


ヨガをやっているとリラックスし、ポーズを取ることに集中するので複雑な考えから離れることができました。そして体の中のストレスも徐々に解消でき、いつの間にか積極的な考えを持てるようになりました。ヨガのおかげで自分自身が良い方向へ向かっていることを実感しました。次第にストレス解消のためだけでなく、ヨガの哲学やヨガと身体との関係について興味を持ち始めるようになり、そして体のつくりやヨガのポーズの効果と身体への影響、他には瞑想やヨガの哲学といった「ヨガ」の勉強にのめりこんでいました。勉強をしていくと、今を大切にする考え方や自分自身の生き方についての気づきもありました。私は競争心が強く、他人より勝りたい気持ちがあるという自分自身のことに気づかされ、これからは今、スキルを学んだり、知識をシェアするものが多かったです。中にはサッカーをするコミュニティもありましたが、男性でないと参加しにくく、誰でも参加できるわけではありませんでした。男性も女性も、子どもがいるお母さんでも参加できるような健康維持やストレス解消の場というのはありませんでした。なので、私は自分で “Vietfit” というみんなで集まって体を動かすコミュニティを作ろうと考えました。


“Vietfit” のアイディアが固まり、次は一緒に運営してくれるパートナーを探しました。そして自分と同じ考えを持った人たちが集まってきました。友達の紹介で、日本で働いていてパーソナルトレーニングの資格を持った若いベトナム人の仲間もできたので、いっしょに企画を考えました。


2人目の出産となり、育児休暇を取りました。この時期、子どもは母に見てもらい、私は1か月間、海外へヨガの資格を取りに行きました。資格を取得後、日本に戻り、2人の仲間と身体を動かすプロジェクトを開始しました。第1回目は新大久保でプロジェクトに興味ある人たちへヨガの講義をしました。私は学生時代、ダンスクラブを運営し、集客の経験もあったので、他のグループやコミュニティに声をかけて協力していもらいました。参加者の大半は社会人で肩こりの人が多かったので肩こり解消のヨガを行ったところ、みんな喜んでくれました。このイベントには20名以上の人が参加してくれて、男性も女性も、子ども連れのお母さんもいました。みなさん最初は、ヨガは身体が柔らかくないとダメだ、哲学的で難しいと思っていたようです。しかし実際にやってみて自分でもできる、リラックスできて気持ち良かったという良い声をたくさんもらいました。


みなさんから好評だったので、今度はFacebookのライブで夕方にヨガを練習することも始めました。一人だけだとなかなか続けられない練習も、他の人もやっているから頑張ろうと切磋琢磨することができ、多いときは50名もライブに参加してくれました。そして、第2回目のイベントは、代々木公園で自然に囲まれた中でヨガを行いました。これからもっと “Vietfit” の活動を活発化させ、多くの人に心も身体も健康になってもらい、自分自身を愛してもらいたいです。これからも頑張り続けます。

メッセージ

来日してから数年を経て、新しい自分になりました。以前の私はいつも焦って急かされていて、目標を達成しなければならない固定概念やスケジュールでいっぱいいっぱいでした。忙しい日々の中では気持ちがちきれそうになった時、ヨガに出会いました。ヨガのおかげでリラックスすることができ、落ち着く時間やゆとりを持てるようになりました。


日本での生活は忙しくてストレスが多く、留学生も社会人も大変だと思います。日本は、ベトナムと同様にコミュニティや組織を大切にする文化があるので、ルールや時間を守り、周りの人に自分を合わせないといけない場面も多くあります。しかし、周りばかり気にしすぎて自分自身を失ってしまうことはよくないことです。お金がないから、時間がないからと自分のことを後回しにすると、結局、自分自身が辛いだけで充実した生活は送れなくなってしまいます。


ストレスをコントロールし、生活のバランスを取るためには、自分の時間を作ることです。毎日の仕事、週末の交流など以外は、スポーツをしたり、絵を描いたり、音楽を聴いたりする。それだけでも日ごろのストレスから離れてリフレッシュできると思います。そして大事なことは、他の人の目を気にしすぎないことです。日本での生活はストレスを感じることが多いので、他の人の目ばかり気にしすぎて自分自身にプレッシャーをかける必要はありません。自分だけの時間、自分は何をやりたいのか考える時間が大切ですね。

東京、2019年5