ファム ヴァン 

ティン

Profile & Message

2013          軍事技術学院を卒業、就職のために来日

2014          IT企業へ転職

2016          退職し、ITのスタートアップ企業”zehitomo.com"を2名の創業者と立ち上げる

2018        新しいIT学習コミュニティ”coders.tokyo"を立ち上げる

2019          ”Corize Inc.”をスタートアップ企業として立ち上げる         

高校生の時から時々、自分の人生は一度きりで元に戻ることはできないと考えていました。一度きりの人生ならば、社会に何か影響を与え、残ることをしたいと思っていました。みなさんの中には、仕事でバリバリ活躍して給料も高く、偉い地位に就くこと、結婚して家庭を持つこと、そして退職後は旅行へ行って楽しむことを目標にしている人もいると思います。しかし私は社会に何か残すことに意味があると考えています。ITを勉強したい人が自由に勉強できるcoders.tokyoを作ることが多くの人のためになり、社会に何かしら残せたと思っています。このcoders.tokyoの活動がこれからも続いていってほしいです。

選択とチャンス

高校生時代、自分の周りには海外へ留学している人や働いている人がたくさんいました。そのような時代、環境だったので、私もチャンスがあれば国内にとどまるのではなく、いつか海外へ行きたいと考えていました。留学という選択肢もあったのですが、家計を考えると経済的なゆとりもなかったので、日本で働くチャンスを掴むつもりでした。 高校を卒業し、どこの大学へ行こうか迷っているとき、ある先輩から大学の中でも軍事技術学院を勧められました。この軍事技術学院は日本の企業とのつながりがあるので日本へ行くチャンスがあると聞き、私はあまり深く考えずにチャンスを掴もうとこの軍事技術学院を受験することに決めました。


私の専攻はITではなく、情報通信工学部でした。ハードウェアなどの勉強がメインで、この大学で最難関の学部です。4年生のとき、部品やハードウェアを作ることよりもコードを書いて新しいウェブサイトやアプリケーションを作ることの方が面白そうだと思い始めました。


この時すでに卒業まで1年しかなかったのですが、私は専門の情報通信工学からITへ方向性を変えました。だからと言って今の電子通信の勉強を止めるわけにもいかないので、学校ではハードウェアのことを勉強し、空いている時間にインターネットでITのコーディングや開発のことを独学で勉強していました。勉強して実際に自分でコーディングして作ることはとにかく楽しくてしかたありませんでした。


卒業前に、ある日本の会社が大学に来て就職の選考を行っていました。その会社はハードウェアがメインの会社ですが、ソフトウェアの事業もこれから拡大していくと聞いたので、選考を受け、晴れて内定をもらいました。高校生の時からの「日本で働く」という夢が叶いました。

セーフティゾーンから飛び出す勇気

しかし、このハードウェアの会社の仕事はあまり長続きしませんでした。もともと、ハードウェアの仕事にはあまり興味がなく、ソフトウェアの事業があるということだったので選んだのです。やはりITの開発をしたかったので、毎日、帰宅してから自分でITのプロジェクトを探し、開発していました。入社してから1年間、会社で仕事をしながらITの勉強をする日々でした。だんだん、こんな毎日に意味があるのか、自分がやりたいことは別にあるので時間の無駄ではないかという思いが膨らみ、やはり自分が本当にやりたいITの仕事ができる会社へ転職しようと決めました。


転職活動ではいろいろな会社に応募し、東京のある小さなIT企業から内定をもらいました。ここでの仕事を通して、私は好きなことを仕事にしたら毎日が本当に幸せだということを実感しました。


今から考えると、転職という決断は自分の人生を変える大きなターニングポイントでした。大学生の時に専門の電子通信の方向で進むか、それともやりたいITの方向で進むか悩んでいました。電子通信の仕事は専門分野なので知識もあり、自分のセーフティゾーンです。しかし、本当はITの仕事がしたかったのです。ITは知識もスキルもゼロに等しいので、このセーフティゾーンから飛び出すことには勇気がいりましたが、新しい方向へ向かって飛び出しました。


このIT企業では様々プロジェクトに携わりました。だいたいは何か月間にも渡るプロジェクトです。まったく新しいチャレンジだったので、自分の知らないスキルは自分で勉強して身に付けました。しかし入社してから1年が経ち、いつも一緒に仕事をしていた先輩たちが辞めてしまいました。その分、私の担当プロジェクトが増え、5つ、6つのプロジェクトを抱えることになりました。たくさんのプロジェクトに関わることでたくさんスキルを身に付けることができることは良かったのですが、チームとして働くことが少なくなってきました。


このままこの会社で働いていてもチームワークを身に付けることができません。多くの人と一緒に仕事をしたいという気持ちが出てきました。そして2年目が終わる頃には多くの人がいて、チームとして仕事ができる新しい環境へ移ろうと決め、また転職活動を始めました。


私は履歴書を書き直し、転職活動をしているある日、突然、人材紹介会社からあるITのスタートアップ企業の立ち上げている人と話をしないかと連絡がありました。これはチャンスかもしれないと思い、その人と会って話をしました。話をした時点では、まだアイディア段階で、この会社自体も方向性もまだ何一つできていませんでした。2人の創業者はまだ別の会社でフルタイム働きながら立ち上げの準備をしていたのです。私は毎週末、創業者たちと新しく立ち上げる会社についてたくさん話し合いました。

2016年2月、このスタートアップ企業の方向性が決まったので、私たちと創業者たちは今の会社を退職し、すべての時間を立ち上げに注ぎました。 “zehitomo.com” という新しい会社の始まりです。前の会社での経験やスキルが大いに役立ち、3年間で社員数が約30人になるまで成長しました。

すべての人にチャンスを与えたい

zehitomo.comで働き始めて2年が経ち、仕事もある程度軌道に乗ってきたので、帰宅後、夜の時間を使ってSkypeでITの開発コーディングセミナーや講義を始めました。対象はITを勉強したい人や仕事にしたい人です。きっかけは、私も昔自分一人でITの勉強をしていた時に課題に直面することが幾度とあったので、私と同じように悩んでいる人やこれから新しくITを頑張って勉強したい人をサポートしようと思ったからです。


Skypeのオンライン講義は4人の生徒からスタートしました。実際にやってみるといろいろな課題が生まれました。まず、オンラインと言ってもみんなの希望時間がバラバラで、同じ時間帯に調整することが難しかったです。また、ITも分野が広く、興味のある言語やスキルも人それぞれなので、講義内容のバランスを取ることも大変でした。


みんなの興味関心は違うということもあり、みんなのIT学習に対するニーズはどれぐらいあるのか多くの人に聞いてみました。ベトナムにいる人も日本にいる人もプログラミングを勉強している人からのニーズが高かったです。また、IT専攻ではなく、新しい仕事のチャンスを掴むためにITを勉強したいという人からのニーズもありました。その他には、大学や専門学校でITを勉強している人から、知識はあるものの実践できる機会がないので実際のプロジェクトを通してスキルを磨きたいというニーズもあることがわかりました。


さまざま声を聞き、かなりニーズがあるのだなと実感しました。今はSkypeで限られた人数だけを対象としていましたが、これからは多くの人を対象とした講義が必要だと考え始めました。多くの人を対象とした場合、Skypeでは対応しきれないので、動画を撮って流すことにしました。これならば一度で多くの人へ伝えることができ、いろいろなニーズに合わせたコンテンツを用意することができます。新しく動画の講義を始める前に、かつて自分が勉強しているときにぶつかった課題を洗い出し、どのような内容にするか考えました。


1番目に考えたことは、方向性です。どのような言語を勉強するのか。ITにもいろいろな言語があり、日々、進化していきます。インターネット上にも勉強できるビデオや動画はありますが、ほとんどは既に知識のある人向けの内容です。初心者の人や勉強したことがない人にとっては難しく、そのような人向けのものはありませんでした。また、コンテンツも一つ一つ単独のものはありますが、体系的に勉強できるコンテンツはありませんでした。


2つ目は、講義の言葉です。ほとんどのビデオや動画は英語なので、見ている人の中には内容を十分に理解しないまま勉強している人もいると思います。そうなると途中でわからないこと、課題にぶつかることも多いので、ベトナム語で講義しようと考えました。


3つ目は、学んだ知識を実践することです。開発知識について動画を見るだけ、テキストを読むだけでは身に付いたとは言えません。新しいことを勉強したら前に勉強したことを忘れてしまいます。私自身も、実践で使って初めて勉強した知識が身に付いたと感じることが多々あったので、知識を使えるようなコンテンツが必要だと思いました。


動画講義のコンテンツ計画はできましたが、ゼロから立ち上げることはとても大変でした。仕事から帰ってからビデオを作る毎日でした。平日は1日1つ、週末は4つぐらい作成しました。時間がとてもかかる作業でしたが、ようやく数か月が経ち、9つのコースで300本の動画が出来上がりました。この動画を見た人には、知識を実践できるような課題も用意しました。勉強したことがないIT初心者でもこの講義を受講したら仕事で使えるようになってほしいと思い、時間をかけて作りました。


この講義でどんなテーマを教えるかを考えたとき、すべての知識を教えることは難しいと思いました。なので基本的な考え方を理解し、その後は自分で勉強を進めることができるよしました。これならば一度で多くの人へ伝えることができ、いろいろなニーズに合わせたJava Scriptをメインで教えました。Java Scriptは他の知識にも通ずるので、しっかり教えることにしました。

数か月が経ち、去年の2018年6月、講義動画をFacebookと You Tubeでリリースすることができました。名前は “coders.tokyo” です。最初の受講生は数十人しかいませんでしたが、この講義はわかりやすい、役に立つとみんながシェアしてくれたおかげで、どんどん受講者数が増えていきました。予想人数をはるかに上回り、1年2か月が経った時点で受講者数が1万3000人にもなりました。そしてこの講義を受けていた人の中には、ベトナムの大手IT企業への就職が決まった人もいます。また、いくつかのIT企業から私の講義動画を新人研修として使いたいとオファーされ、実際に使っている企業もあります。

大きな夢を描く

予想を超えて多くの人にcoders.tokyo が受け入れられたことは嬉しいのですが、みんなから期待されているからこそ、現状維持ではダメだと感じ始めました。もっと多くの人に届けるためには、さらにシステムを充実させられないかと日々考えていました。


受講者が増加していくにつれ、受講者からの疑問や質問も増えてきたのですが、質問にはその都度対応していて、同じ質問を違う人からされることもありました。もはや一人で対応しきれなくなっていました。ならば、みんなで疑問や質問を共有し、答えることができるプラットフォームがあった方が便利だと思い、最初は、質問コーナーをサイト内につくり、みんなが質問でき、答えることができるようにしました。また、つながりが増えてくるにつれてSlackでグループチャットをつくったり、facebookグループも開設したりし、お互いが情報交換でき、そして気軽に質問できる場所が生まれました。


また、コミュニティをつくることにより受講生とのコンタクトも増えたので、どんな人なのか知ることができるようになりました。受講者の中にはとても頑張っている人もいます。私としては頑張っている人は応援したいと思っているので、特別にメンターをつけてあげたりしました。


コミュニティが大きくなってくると私一人での活動も難しくなってきました。しかし中には私と同じようなビジョンを持っている人もいて、グループを拡大させることに協力してくれる人も出てきました。その仲間たちと今はスタートアップ組織にするために準備を始めました。営業やコンテンツ作成など、立ち上げに向けて一緒に準備してくれる人たちがいます。メンバーはベトナム現地の人たちだけですが、この学習システムをさらに拡大し、ITの勉強以外で、たとえば仕事が見つかった人も参画できるような環境を作りたいと考えています。


ベトナムにいる多くのIT学習者はチャンスを掴むために日本へ行きたいと考えていると思います。なので、これからはITの内容だけでなく、日本語や日本企業で働くためのマナーやソフトスキルを勉強できる学習コンテンツも展開しようと考えています。私は、近い将来、coders.tokyo が、ITを仕事にしたい人たちが勉強し、実践で身に付けることができ、そして仕事も見つかるというシステムを持った会社になることを目標に頑張り続けています。

メッセージ

高校生の時から時々、自分の人生は一度きりで元に戻ることはできないと考えていました。一度きりの人生ならば、社会に何か影響を与え、残ることをしたいと思っていました。みなさんの中には、仕事でバリバリ活躍して給料も高く、偉い地位に就くこと、結婚して家庭を持つこと、そして退職後は旅行へ行って楽しむことを目標にしている人もいると思います。これらは一般的な幸せの形だと思います。しかし私は社会に何か残すことに意味があると考えています。ITを勉強したい人が自由に勉強できるcoders.tokyoを作ることが多くの人のためになり、社会に何かしら残せたと思っています。このcoders.tokyoの活動がこれからも続いていってほしいです。


今の日本に来ている留学生を見ていると、みんな卒業後にどの方向で頑張るのか迷っている人が多いように感じます。とてももったいないことです。coders.tokyoはまだベトナムでしか展開できていませんが、これから日本でも展開し、ITの仕事をしたい人が勉強し、実践し、就職までできるような組織にしていきたいと思います。



東京、2019年8月