日本から帰国して何をする?
日本にいる間に誰でも、「日本から帰国したら何をすればいいか?」と自問自答し、迷うことがあります。
帰国に向けて、しっかりと知識を身に付けていた先輩たちは別として、ほとんどの人がベトナムに帰国したときに、進む道を見つけるのに苦労しています。
オリエンテーションプログラムは沢山ありますが、これから日本に行く人向けのもので、これから帰国する人向けのプログラムはほとんどありません。
なので今回は、私の帰国してからの体験談を皆さんにお話ししたいと思います。
これからの話は全て私自身の経験であり、皆さんに当てはまるわけではありませんし、正しいわけでもありません。個人的な意見も入ってきますが、参考程度に読んでいただけたら嬉しいです!
まず初めに、私の日本での生活と日本に行く前のことを少し話させてください!
目的もなく来日する
ゲアン省という貧しい農村地域に生まれた私は、他の人と同じように、進路相談のプログラムを受けるチャンスがありませんでした。選択肢を考えることも無かったのですが、両親のように農業を続けて、このままこの地域にいては貧困から抜け出せないということだけはわかっていたので、とりあえず地域の外に出ることを考えていました。
2014年頃は日本へ行くことがブームになっていて、多くの人々が日本に行きました。
私が選択に迷っていたので、父は私が家から出ないのでは無いかと心配していました。
なぜなら父は私がこの地域から出て、成長する機会を得ることを強く望んでいたからです。父自身も昔、この地域から出たいと考えていましたが、祖父が戦争で負傷してしまったため、諦めるしかありませんでした。そのため、息子にはその夢を叶えてほしいと願っていたのです。
そして特に理由もなく、私が日本に行くことを選んだのは、日本に留学していた同じ村のお姉さんが一時帰国し、話を聞いて日本に行くことを勧められたからでした。
日本でコミュニティ活動の経験
私は日本に4年間くらい住んでいましたが、最初の2年間については他の先輩と同じような生活なので、特に話すことはありません。学校に行ったり、生活のために皿洗いや運送業者、レストランなど、様々なアルバイトをしました。
そして2年間語学学校に通った後、東京の専門学校でグローバルビジネスを専攻することにしました!その時の私は、早く学校を卒業してお金を稼ぎたいと思っていたので、大学には進学せず、専門学校を選びました。
しかし、この2年間でマーケティングとビジネスへの興味があることに気づき、それは将来の活動の重要な基盤となりました。
専門学校在学中の2018年、ディン・フンさんという先輩に出会い、そこから新たな旅が始まりました!
フンさんは日本で会社を経営していたので、私はその会社でアルバイトとして働き、他の同僚と一緒に日本語教育活動や、在日ベトナム人のためのコミュニティ活動を始めました!これまでのアルバイトは、ただのお金稼ぎの感覚でしたが、このアルバイトを始めたことで、日本にいるベトナム人が、もっと豊かで幸せな生活を送るための活動がしたいという、明確な目標を持ちました。
東京にいるベトナム人ならX-Tokyo Tea Roomについて聞いたことがあるかと思いますが、これは私が最も力を注いだプロジェクトであり、私の日本での活動で最も記憶に残る時間だったに違いありません!
東京で音楽が好きな人が集まって交流し、小さなライブをするための場所として、X-Tokyoを設立しました。
皆にとっての第3の居場所というコンセプトで運営していました。
第1は自分の家、第2は会社や学校、そして第3が X-Tokyoです。故郷を離れているベトナム人にとって、感情や思いを分かち合える最高の場所でした。
日本にいるベトナム人は、1人であることが多いので、他の人と繋がりを持つ場所が必要です。X-Tokyoは、在日ベトナム人が他の人と音楽を通して、感情の繋がりを分かちあうことを使命としていました。
毎月、東京で 1〜2 回開催し、毎晩最大 80〜120 人のベトナム人が集まり、音楽を聴いて、泣いたり、笑ったりします。自分の感情に正直に向き合える場所でした。
大阪や名古屋でも時々イベントを行い、500〜600人が参加したこともありました。
X-Tokyoが在日ベトナム人の居場所として、多くの人たちにプラスの影響を与えていたことを誇りに思います!
2019年、専門学校卒業後、フンさんの会社に正社員として正式に入社し、日本語教育関係の業務を担当していました。1年ほど前に出張で一時帰国をし、コロナの影響でそのまま日本に戻れなくなってしまいました。
日本から帰国したら何をするか?
2020年2月頃、コロナの流行により日本が入国制限される約1ヶ月前にベトナムに帰国しました。その後日本の入国制限により、日本に帰国することができず、ベトナムに留まることになったので、別のキャリアがスタートしました。
帰国後はフンさんと方向性が違っていたことから、一緒に仕事を続けませんでした。
正直なところ、帰国して最初の半年間は、急な帰国だったこともあり次に何をすれば良いのか分かりませんでした。また、私が行く前と戻ってからでは、ベトナムは大きく変化しており、その変化に追いつけ無かったことも理由のひとつでした。
その他の原因としては、日本から帰国したベトナム人が出来る仕事は限られているということです。送り出し機関や留学センター、日本の会社や貿易関係などしかありません。日本へ行く前は留学センターの人から、帰国したら可能性が広がるといわれていましたが、実際は違っていて競争も激しいのが現実です。
最近のベトナムの若者はとても積極的で行動も早く、様々なことに取り組んでいます。
外国語を勉強することも彼らにとっては、基本的すぎることです。18歳〜19歳であるにもかかわらず、ヨーロッパ人のように、自分たちで巨大なコミュニティを構築し、読書の文化を広めたり、山岳地帯でボランティア活動をしたり、孤児の世話をしたりしています。そんな事実に直面すると、私たちは自分がとても遅れているように感じました。
さらに、日本でベトナム人に日本語を教えている先生は、ほとんどがベトナムの大学の学生だということからも、私たちの競争者である国内の学生にとって、外国語は必須であり、日本の企業で働きたいのであれば、日本語が上手であることも必須です。
私たちは日本での生活に慣れてしまい、肉体労働や労働時間を伸ばしたり、仕事をいくつか掛け持ちすれば稼げるので、スキルを身に付けなくなった人が多いです。
しかし、ベトナムで同じくらい稼ぐためには、スキル、知識、経験、そして時には人間関係を円滑にする能力も必要です。
そのようなギャップを感じて、自分にはスキルがないことに自信を無くし、就職の面接へ行くのも、他の人と競争することも怖くなりました。
ではやりがいのある仕事をしたければ、どうしますか?
1つ目は「日本へ帰国する方法を見つける」こと、2つ目は「日本に行く前の仕事に戻る」こと、3つ目は「日本で貯蓄した資金で起業する」ことです。
この3つ目の選択肢は罠であり、しっかりと準備しなければ、大きな問題に直面する要因です。私もその問題に直面した一人でした。
ベトナムでの行き詰まり
これは、私自身が経験したことで、皆さんには絶対に経験して欲しくないことです。
就職面接に行くことが怖く、就職したくないという理由で起業することにしましたが、精神力、能力、知識、資金力などの準備が整っていない状態で、自分で起業を決意するのは怖いことです。
ビジネスを始めるのは本当に簡単な選択ではありません。
ベトナムで何をすればいいのかわからずに半年間苦労した後、自分の会社であればやりがいがあるかもしれないと思い、とりあえず起業しました。オフィスを借り、人を雇い、商品を輸入するための資金の調達を始めました。
しかし1年後には、日本で貯金した資金は0になり、借金は500万円以上になっていました。
知識も経験もお金もなく、一度失敗するとなかなか起き上がれなかったり、どうやって生きればいいか分からない日があったりと、行き詰まりの日々でした。
請求書やオフィスの家賃、給料など、支払いが一気に来ることもありました。しかし、お金が足りず、自分に対する自信も無くなっていました。
「失敗は成功の母」と言われますが、何も考えずにとりあえずの選択をすると、当たり前の失敗をしてしまいます。準備をしっかりとした上での失敗は勉強になりますが、当たり前の失敗をしては意味がありません。
もしあなたが今日本にいるのであれば、日本で稼いだお金はなるべく貯金しておきましょう。ベトナム帰国後の資金になります!
日本ではなんとなくお金を稼げるので、スキルを身に付けない人も多いですが、帰国後にキャリアの差が開いてしまうことがあります。なので、日本にいる間にそのことを考えて、スキルをしっかり身に付けておくことをおすすめします。
立ち直る
帰国して2年経って、失敗からたくさんの教訓を学んだ私は、以前より現実的な方法で再スタートしようとしました。今度は在日ベトナム人がもっと充実して仕事ができるように、フン先輩とVOICE OF ASEAN SEMPAIの第11号にも出ていたアン先輩と3人で、新しい会社を立ち上げました。日本で暮らしているベトナム人が、充実した生活を送れることをビジョンとしている会社です。
私たちは、金銭的な成功だけでなく、知識や感情も満たされることも大切にしています。現在は20〜30名の社員でコツコツと頑張っています。
帰国後の失敗や日本での経験、その全てが今の私を作っているのでとても感謝しています!
皆さんに共有したい経験や問題は他にも沢山ありますが、これからベトナムに帰国することを考えている方に、以下のいくつかのメッセージを伝えたいです。
・まずは正しい選択の重要性です。選択は時に努力よりも大切になります。
選択を間違えると、努力ではどうしようも無い状況になることがあります。努力の前に正しく選択出来るかが重要です。帰国したらゴールと考える人もいますが、それは違います。新しい道に向けてしっかり準備する必要があります。
・いい仕事を見つけるためには、自分自身をしっかり理解する必要があります。
自信がありすぎても危険ですが、無さ過ぎてもダメです。怖さに負けずにしっかりと考えて行動しましょう。
・日本にいる間も、知識やスキルを身に付けましょう。自己成長のためにしっかり勉強する姿勢を持たないと、変化と競争の激しい世界から置いて行かれてしまいます。
・進むべき道を見つけたら、集中して取り組みましょう。何となく気を抜いてやっていては、いつまでも目標に到達できません。
「帰国することはゴールではありません。帰国後も乗り越えなければならない壁や、問題が多くあります。そして、新しい旅のスタートでもあるのです。正しい選択をするために、しっかりと準備をしておくことが重要です。」
Hoang Cuong
ハノイ、2022 年10月